イリアスのゾイド講座 出張編

第一回 ウィスタリアウルフ



 はじめまして黒燈様。今回、ゾイド講座特別編にてウィスタリアウルフの解説を任されました、イリアスと申します。どうぞお見知りおきを。
 ゾイド講座特別編、HL-10Xウィスタリアウルフに関する解説、および私的見解を述べさせて頂くということで、よろしくお願い致します。

 西方大陸ガーディアンギルド、ベース・バーガンディー所属ゾイド、ウィスタリアウルフ。その名の通り、蒼いカラーが目を引く狼型ゾイド。
データではセンリッジ・インダストリーからの貸与機であり、製造も同社とされていますが……、実際のところ、どうなのでしょうね? 一民間企業が製造できるゾイドとも思えず、また暫定型式がHL……ヘリック共和国式であるところを見るに、同国の試作機ではないか、という噂もあるようですが……?
 ただしそう考えても、どうにも他の狼型ゾイドとの関連が薄いというのも、また事実です。コマンドウルフより大きく、ケーニッヒウルフより小さい。ただ、機体側面の構造等からどちらかといえばコマンドウルフに近い機体であるという印象はありますね。
 機体各部に、ライガーゼロシリーズの意匠が垣間見えるのも特徴です。これも例の噂が広がるのに一役買っているようで、特に背面ブースターや前肩部装甲などに、影響が見られます。

 とまあ、真相が闇の中な出自の話はさておき。このゾイドの特徴は、その高速戦闘能力でしょう。
 徹底した軽量化、そして背部のイオンブースターにより、時速300qオーバーの最高速を誇ります。資料によって300km/hと310km/hという二つの記述がありますが、片方は後述する追加兵装「フランメ」搭載時の資料に付随された記述ですので、恐らく310km/hが正しいのではないかと。ちなみに、「フランメ」搭載時には290km/hと、それでも平均以上の速度を叩き出します。
 さらに、側腹部に装備された偏向型サブスラスターにより、従来の高速ゾイドを超えた機動性を発揮します。同じくスラスターを偏向させる事で機動力の向上を狙ったライガーゼロイェーガーとは違い、こちらは完全に「主推力」と分離された、いわば「制御専門」のスラスターであり、全速走行からの横移動や、急旋回なども可能となっています。明記はされていませんが、点火・停止が容易であるロケットブースターの可能性が高いですね。

 高速ゾイドの宿命ゆえ、決して重装甲ではない当機ですが、防御面もおろそかにはされていません。背部ブースターの基部にエネルギー・シールド発生器を備え、さらには「オート・ディフェンス・システム(ODS)」により、敵弾に対して自動的にシールドを展開するという機能も付加されています。
 ただし、あくまで機体のコンセプトが「防御」より「回避」に特化しているため、出力も決して高くはなく、展開時間も短いとのこと。
 私が思うに、このEシールドの存在も、ウィスタリアウルフが共和国軍の試作機であるという仮説の論拠になりうるのではないでしょうか。
 一部の万能機……アイアンコング等を除き、ゾイド、特に限定領域で使用されるゾイドのコンセプト、設計思想は、特化されていればされているほど良い、とされています。
 ウィスタリアが限定領域での機体かと言われればそうとは言い切れませんが、どちらかといえばそちら寄りなのも確かです。中〜大型クラスの高速機は、決して「汎用機」ではないのですから。
 ならば、ウィスタリアもEシールドを使用するだけの余剰出力があるのなら、それをスラスターにまわして回避効率を高めるのが、コンセプトとしては正しいわけです。
 しかし、ウィスタリアにはEシールドが搭載されている。なぜか?
 不測の事態から、機体を守るためなのではないでしょうか。
 この手の「安全装置」が搭載されるのは、試作機では珍しい話ではありません。制式に生産する段階になって、それらを取り払えばいいだけの話なのですから。
 というわけで、私も試作機説を推します。

 武装は必要最低限で、射撃装備は腹部の3連ショックガンのみ。野良ゾイドを相手とするガーディアンギルドでの運用ならば問題は無かったようですが、後に開催されたワンオフカスタム機同士のバトルイベント「アリーナ」においては、対戦闘ゾイド用武装として複合機動火力ユニット「フランメ」が開発されました。
 通常時のブースターと換装する形になるこの「フランメ」。粒子を圧縮停滞させることにより「ビームの刃」を形成出来る特殊なビームライフル、そして自動照準式のマシンガンとミサイルからなる火力、そして後部にはブースターとマグネッサーウイングが装備され、火力と機動力を両立させた、セイバータイガー用のアサルトユニットに通じるものがある武装です。
 この「ビームの刃」を形成するという、今までのゾイドにはない装備に関しては、ガイロス帝国で研究されていた「ビームエッジ」という技術に関連があると思われます。
 この「ビームエッジ」を搭載したレドラーが、ベース・バーガンディーに所属しているらしい……との話もありまして、そのへんで技術提供、ないしは流出があったのではと推測しています。

 さて、色々と見てきましたが、このウィスタリアウルフ。私個人の感想として、この機体からは「二面性」という言葉を連想します。
 もっともこれは、各所で耳にしたウィスタリアとパイロットであるイスナ・ライラック嬢との微笑ましいエピソードと、その一方で自らの意志で野良ゾイドを食い殺したという残虐性から感じただけではあるのですが……。
 多かれ少なかれ、人間でもゾイドでも、生物ならば多少の二面性は持ち合わせています。ただし、こうまで極端に差異のある印象を受けたゾイドは初めてで、そこにウィスタリアの謎の鍵が隠されている……のかも知れません。
 とはいえ、「二面性」は私から見ただけの話であって、もしかしたら、野良ゾイドを食い殺したという事実も、ただただ主であるイスナ嬢を守るため、愚直なまでにそう行動しただけなのかも知れない。心の中を覗けでもしない限り、ウィスタリアの思いを、完全に理解することは難しいのではないでしょうか。

 今日もエウロペの蒼い空の下、蒼い身体のウィスタリアウルフは、野良ゾイド相手に奮闘していることでしょう。願わくばその蒼が、他の色に染まらぬように……。

 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。では黒燈様、御機嫌よう。イリアスでした。













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