……暑いなあ……。
 目が覚めた――本当に長い眠りから――ボクを待っていたのは、相も変らぬ赤道直下の熱風だった。
 ゾイドだって、極端に暑いのは苦手だ。それは、こうして機械の身体に置き換えられても変わらない。
むしろ色んな場所を冷却しなきゃいけない分、暑さには余計敏感になる。
 そんなわけで、格納庫の中でぐったりしてたのだけど。
「ウィスー!」
 ……そうもいかなくなったみたい。
「ウィス、走りに行こう!」
 このところ毎日、この可愛らしいご主人様に付き合って、砂漠を走りまわっている。
 不思議なものだった。今まで暑さにうんざりしていたのに、彼女の涼しげな声を聞くだけで、どこか心が躍っている自分がいるのだから。

 砂漠に出て、ふと感じた。いつも走るコースじゃない。
「えへへー、今日はとっておきの場所に連れてってあげる!」
 ……いつにも増してハイテンションなご主人様。ボクの疑問を感じたかのように、コクピットの中でそう答えた。
 やがて、荒涼とした地平線に、何かが見えてきた。
 感じる。五感を研ぎ澄ます。風の音。それに運ばれてくるのは、水の香り。
 ……オアシス。

「ここ、結構前に見つけたんだ。いい所でしょ」
 コクピットから降りて水際に立ったご主人様が、ボクにそう話しかける。
「いつかウィスを連れてきたかったんだ。ここの水ってすごくきれいで、おまけによく冷えてるから冷却水にはもってこいだし!」
 確かに、ここだけ空気が違う。相当深い場所から湧き出ているのか、冷たい水に冷やされて、涼しい。
 と。
「……んしょ、と」
 いきなり、ご主人様が服を脱ぎ始めた。
「えへへ、どう? 可愛いかな?」
 ……なるほど。下に水着を着てたってわけですか。正直何をするのかちょっと焦ったけど。
 ばしゃん。
 勢い良く、ご主人様が湖に飛び込む。飛び散った飛沫が、ボクの足先を冷やした。
「ウィスもおいでー!」
 大きく手を振って、ボクを呼ぶご主人様。
ボクの身体じゃあ全身浸かるのは無理だろうけど、ここなら足先を浸けるだけでも、充分涼しくなれそうだ。
 ……ふと、悪戯心が湧いた。
 勢いをつけて、思いっきり跳躍。盛大に水飛沫を上げて、ボクは湖に飛び込んだ。
「ふわっ! ……やったなー!」
 振り返りざま、頭から水をかぶったご主人様がボクの頭に水をかける。
 お返しとばかりに、ボクも前足で水を跳ねる。今度は加減して。
 ……暑いのはやっぱり嫌だけど、こういうふうに遊べるなら、暑い日も悪くない。そう思った、ある夏の日。





 ……そして、ご主人様が帰りに着る下着を忘れたというのは、お約束。








お送りしたのは黒燈のオリジナル小説『BLUE SOUVENIR』の主役コンビを題材とした滝上様のショートストーリーでした。
『ゾイドの1人称視点』という斬新かつ滝上様らしさ全開の逸品です。
イスナのキャラクターもよく捉えられていて、思わず顔が綻びます(ぉ
今回もヴェナトの例に則り、勝手ながら挿絵を描かせて頂きましたw

滝上様、ありがとうございました!














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